目次「愛猫が突然、痙攣や意識を失うような発作を起こした」――その光景は、飼い主様にとって計り知れない不安と恐怖を伴うものです。特に高齢の猫ちゃんに起こる発作は「てんかん」と診断されることもありますが、その原因はさまざま。適切な対処法を知ることが何よりも重要になります。このコラムでは高齢猫のてんかんについて、獣医師の視点からその特徴、ご自宅での緊急時の具体的な対処法、そして動物病院での治療を分かりやすく解説します。この記事を最後まで読むことで、愛猫が発作を起こしてもパニックにならず、適切な対応を取るための具体的な知識と安心感を得ることができます。一緒に愛猫の穏やかなシニアライフを守っていきましょう。猫のてんかん、なぜ起きる?高齢猫の発作は病気が隠れているサインてんかんとは、脳の神経細胞が異常に興奮することで、発作を繰り返す脳の病気です。犬と比べて猫のてんかんの発生率は低いですが、高齢の猫はてんかん様の発作するケースが増加します。重要なのは、高齢猫で発作が起きた場合、その多くが「特発性てんかん(原因不明のてんかん)」ではなく、「症候性てんかん」つまり脳や他の臓器の病気が原因となっている発作である可能性が高いという点です。原因てんかんの種類原因不明特発性てんかん脳や他の臓器の病気症候性てんかん(高齢猫に多い)発作を引き起こす主な原因高齢猫の発作の原因は多岐にわたりますが、特に注意すべきは以下のものです。脳腫瘍(脳の病変)脳の中に腫瘍ができることで、周囲の神経を刺激し発作を引き起こします。高齢猫の発作で最も多く見られる原因の一つです。脳炎・髄膜炎脳やその周囲の膜に炎症が起こる病気です。高血圧性脳症慢性的な高血圧(特に腎臓病を併発している場合が多い)により、脳に障害が起こり発作を引き起こします。代謝性疾患低血糖:糖尿病治療などで起こり得る。肝性脳症:肝臓の機能低下により、有害物質が分解されず脳に影響を与える。腎不全:尿毒が体内に蓄積し、脳に作用して発作を引き起こす。電解質の異常:副腎皮質機能低下などによるミネラルバランスの崩れ。これらの原因の特定と早期の治療が、愛猫の命とQOLを守る鍵となります。発作のサイン・緊急時の対処知っておきたい猫の発作のサイン発作(てんかん発作)は、その症状によって大きく全身性と焦点性(部分性)に分けられます。猫は、犬よりも焦点性の発作が多く見られる傾向があります。分類主な症状飼い主様からみた特徴全身発作全身の痙攣意識の喪失失禁、よだれ手足を突っ張る/バタつかせる倒れて意識ない身体全体が硬直震える焦点発作(多い)顔の一部や片側の手足だけがピクつく口をカクカクさせる特定の場所を見つめる異常な鳴き声、攻撃性症状が部分的。一見すると「変な行動」に見えることがあるまた、発作の前兆として落ち着きがなくなったり、発作後に一時的に視覚障害やふらつきが見られることもあります。発作が起きた時の「緊急時の対処法」愛猫が発作を起こしたらパニックにならずに以下の行動を心がけてください。安全の確保・猫が怪我をしないように周囲の危険なもの(家具の角など)を遠ざける・無理に抱き上げたり、口の中に手を入れたりしないこと(噛まれる危険あり)静かに見守り、記録する声をかけたり、体を揺らしたりせず、静かに見守る発作の開始時刻と終了時刻を正確に記録する(持続時間が重要)可能であれば、発作の様子をスマートフォンで動画撮影する(獣医師への重要な情報となる)体温の上昇を防ぐ発作が5分以上続く場合は、体温が上昇し、脳にダメージを与える可能性があります。濡れタオルなどで体を冷やし、体温が上がりすぎないように注意します。発作が5分以上続く場合、あるいは短時間で何度も発作を繰り返す場合は「てんかん重積状態」と呼ばれ命に関わる緊急事態です。すぐに動物病院に連絡し指示を仰ぎながら急行してください。病院へ行く前に整理しておくべき情報獣医師は以下の情報を求めます。事前にまとめておくとスムーズな診療に繋がります。発作の頻度と持続時間: 「いつ」「どれくらいの長さ」発作が起きているか。発作時の具体的な症状: 「全身か部分的か」「痙攣の仕方」「意識はあったか」など。既往歴と内服薬: 過去にかかった病気や、現在服用している薬があるか。最近の変化: 発作の前に何か変わったこと(食欲、飲水量、行動など)はなかったか。原因究明と治療方法高齢猫の発作を適切に管理するためには、まず発作の真の原因を特定することが重要です。原因究明のための検査原因が特定できれば、その病気に対する治療を行うことで発作が治まる可能性が高くなります。血液検査・尿検査:腎臓、肝臓、血糖値、電解質など、代謝性疾患の有無を調べます。血圧測定:高血圧の有無を確認します。画像診断(CT・MRI):高齢猫の発作において最も原因特定に有用性が高いのがMRI検査です。脳炎、脳腫瘍、脳血管障害など、脳内の異常を詳細に確認できます。発作の原因に応じた治療基礎疾患の治療(他の病気が原因の場合)高血圧が原因の場合:降圧剤の投与により血圧をコントロールします。代謝性疾患が原因の場合:腎臓病や肝臓病など、基礎疾患の治療(食事療法、輸液、投薬)を行います。抗てんかん薬による治療(原因不明)てんかんと診断された場合や、基礎疾患の治療を行っても発作が頻繁に起こる場合は、抗てんかん薬(抗痙攣薬)の投与を検討します。目的は、発作の回数や重症度を減らし愛猫の生活の質(QOL)を改善することです。薬の選択と調整:猫は肝臓での薬の代謝が犬と異なるため、慎重に薬を選び、血液中の薬の濃度を定期的に測定しながら、最適な量に調整していきます。治療目標の共有:治療は発作を完全にゼロにすることよりも、「愛猫が発作による苦痛や生活への支障なく、穏やかに過ごせること」に重点を置きます。飼い主様へのメッセージ愛猫が発作を起こすのを目にするのは、本当に心が張り裂けそうな経験です。「このままどうなってしまうのだろう」という不安を抱えるのは当然のことです。しかし、発作は治療や管理ができる症状です。大切なのは、パニックにならず、適切な情報を記録し、私たち獣医師と連携して一歩ずつ原因を突き止め、愛猫に合った治療を見つけていくことです。発作があっても、適切に管理すれば、愛猫は穏やかで幸せなシニアライフを送ることができます。あなたの落ち着いた行動と愛情深いケアが、愛猫の大きな支えとなります。まとめ|落ち着いた対応と専門家との連携がカギ高齢猫の発作は、脳腫瘍や高血圧などの重大な病気のサインである可能性があるため、迅速な原因究明と治療が必要です。発作時は安全確保と動画撮影(記録)を最優先5分以上続く発作は即座に病院へ連絡発作は怖いものではありますが決して諦める必要はありません。私たち獣医師は原因の究明から、愛猫のQOLを第一に考えた治療計画の立案、そして薬の長期的な調整まで全力で飼い主様と愛猫をサポートいたします。愛猫のてんかんや発作でお悩みの際は、どんな些細なことでも構いませんので、当院にご相談ください。